まず結論。① 業務記録は1年保存、② 事故記録は3年保存、③ 運転者等台帳は営業所に備え置く。そして重大な事故は 30日以内に国土交通大臣へ報告、一部は 24時間以内に速報。様式は国土交通省がExcelで公開しているので、自分で作る必要はありません。
012025年4月から「記録」が義務になった
宅配需要の急増にともなって軽貨物の事故も増えたことを背景に、2025年(令和7年)4月から貨物軽自動車運送事業の安全対策が強化されました。よく知られているのは貨物軽自動車安全管理者の選任ですが、それは義務の一部です。国土交通省のリーフレットは、強化された義務として次を並べています。
- 貨物軽自動車安全管理者の選任・届出と、講習の受講(選任時と2年ごと)
- 初任運転者等への指導及び適性診断
- 健康診断の実施/運転者への指導監督(毎年)/点呼の実施
- 勤務時間の遵守/異常気象時の措置/過積載防止・貨物の適正積載
- 業務記録の作成・保存
- 事故記録の作成・保存
- 国土交通大臣への事故報告
このうち「記録」にあたるのが、業務記録・事故記録・貨物軽自動車運転者等台帳の3つです。安全管理者の選任は1回で終わりますが、記録は毎日・毎回・ずっと続く義務なので、実務としてはこちらのほうが影響が大きいと言えます。
「点呼をしよう」「日報を書こう」という話は以前からありましたが、それは主に取引先との信頼や自己管理のためでした。2025年4月以降は法令上の義務として位置づけが変わっています。同じことをしていても、記録が残っているかどうかで意味が変わります。
02貨物軽自動車運転者等台帳
「運転者の名簿」にあたる書類です。国土交通省の案内では、記載事項として運転者の氏名、指導の実施状況、適性診断の受診状況などが挙げられており、営業所に備え置くこととされています。
台帳がなぜ必要かというと、01で挙げた「指導」と「適性診断」の義務とセットになっているからです。誰にいつ指導をして、誰がいつ適性診断を受けたのか。それを記録しておく場所が台帳です。逆に言えば、台帳を埋めようとすると、やり忘れている義務が見つかります。
| 台帳とセットで確認すること | 対象 |
|---|---|
| 初任運転者への特別な指導と初任診断 | その事業者の運転者として初めて事業用自動車に乗務する人(過去3年間に他の事業者で常時選任の運転者だった人などは除く) |
| 高齢運転者への指導と適齢診断 | 65才に達した日以後1年以内に初回、その後は3年以内ごとに1回 |
| 事故惹起運転者への特別な指導と特定診断 | 死者または重傷者を生じた事故を引き起こした運転者など |
初任運転者の指導は、法令遵守事項や運転の知識について5時間以上、実技は可能な限り実施することとされています。初任診断・適齢診断・特定診断は、国土交通大臣が認定した適性診断を受診します。指導と診断は両方必要で、どちらかを受けたから片方は不要、という関係ではありません。
初任診断・特定診断の受診時期は「乗務する前」が原則で、やむを得ない事情がある場合に限って「乗務を開始した後1か月以内」とされています。人を雇ってから慌てて探すことになりがちな項目です。診断の実施機関・日程は地域によって埋まりやすいため、採用を決めた時点で確認しておくと安全です。対象者の細かい定義は本文末の国土交通省資料でご確認ください。
03業務記録(運転日報)と1年保存
いわゆる運転日報です。国土交通省の案内では、記載する内容として次が挙げられています。
- 運転者名誰が運転したか
- 車両番号どの車で走ったか
- 業務の開始・終了の日時と地点いつ・どこから、いつ・どこまで
- 業務に従事した距離走行距離
- 主な経過地点どこを通ったか
- 乗務員名同乗者がいる場合
そして保存期間は1年間です。1年というのは短いように見えて、日報は毎日発生するため枚数がいちばん増える書類になります。紙で運用するなら月ごとにまとめてファイルする、データで運用するなら月別のフォルダに入れる、といった仕組みを最初に決めておかないと、あとで取り出せなくなります。
国土交通省が業務記録の様式例(Excel)を公開しています。まずこれをダウンロードして、自分の運行に合うかどうかを見るのが早道です。合わなければ、記載事項を満たしたうえで使いやすく直して構いません。ダウンロード先は09の様式例まとめにあります。
04事故記録と3年保存
事故が起きたときに作る記録です。国土交通省の案内では、記載する内容として事故の発生日時・場所・概要・原因・再発防止対策が挙げられており、保存期間は3年間とされています。
業務記録が1年、事故記録が3年。保存期間が違うので、同じファイルにまとめてしまうと管理が破綻します。事故記録は別のファイル・別のフォルダに分け、日報を1年で整理するときに一緒に捨てないようにしてください。
注目してほしいのは記載事項に「原因」と「再発防止対策」が入っている点です。事故の事実を書くだけでは足りず、なぜ起きたのかと、次にどうするのかを書く様式になっています。これは形式的な話ではなく、トラブル事例と対処法で挙げているような繰り返し起きる事故を止めるための項目です。
事故のとき、保険会社に連絡すれば手続きが終わったように感じますが、事故記録の作成と、次に説明する行政への報告は、保険とはまったく別の義務です。示談が済んでいても、記録と報告の義務が消えるわけではありません。
05国土交通大臣への事故報告(30日以内)
一定の事故を起こした場合、事業者は管轄する運輸支局等を経由して国土交通大臣へ、30日以内に報告書を提出します。国土交通省の資料に挙げられている報告対象事故には、次のようなものがあります(一部を抜粋しています。全体は本文末の資料でご確認ください)。
- 転覆・転落・火災、または鉄道車両との衝突・接触
- 死者または重傷者が発生したもの
- 10台以上の自動車の衝突・接触、または10人以上の負傷者が発生したもの
- 危険物・火薬類・高圧ガス・毒物劇物・可燃物の飛散または漏えい
- 車輪の脱落、被牽引自動車の分離(故障によるもの)
- 酒気帯び運転・無免許運転・麻薬等運転を伴うもの
- 運転者の疾病により運行を継続できなくなったもの
- 救護義務違反があったもの/装置の故障により運行できなくなったもの
「人身事故だけ」ではないことに注意してください。単独の転覆や車両火災、車輪の脱落、疾病による運行中止も対象に入っています。相手がいなくても、けが人がいなくても報告が必要な場面があるということです。
事故直後は警察対応・保険・荷主への連絡・車両の修理と、目の前のことで手一杯になります。そのまま日が過ぎて期限に気づく、というのがいちばんありがちな失敗です。事故の当日に「これは報告対象か?」を確認し、対象ならその時点で運輸支局に連絡してしまうのが確実です。
06速報が必要な事故(24時間以内)
報告書の30日とは別に、特に重大な事故については電話その他適切な方法により、24時間以内のできる限り速やかに報告する「速報」が必要です。国土交通省の資料では、次のようなものが速報の対象として挙げられています。
| 速報が必要な事故 | 期限・方法 |
|---|---|
| 2人以上の死者、または5人以上の重傷者が生じたもの | 24時間以内のできる限り速やかに、電話その他適切な方法で報告 ※そのうえで、30日以内の報告書提出も別に必要 |
| 10人以上の負傷者が生じたもの | |
| 危険物等の飛散・漏えい(衝突等により生じたもの) | |
| 脳疾患・心臓疾患・意識喪失に起因する疾病によるもの | |
| 酒気帯び運転を伴うもの |
速報をしたら報告書はいらない、という関係ではありません。速報は「まず知らせる」、報告書は「あとで詳しく出す」という二段構えです。両方が必要になります。
07いつから必要か(経過措置との関係)
ここが混乱しやすいところです。安全管理者の選任には経過措置がありますが、それを「制度全体が2027年まで猶予される」と読み替えてしまうと危険です。
| 区分 | 安全管理者の選任 |
|---|---|
| 2025年3月末までに経営届出をした事業者 | 令和9年(2027年)3月までに選任 |
| 2025年4月以降に経営届出をした事業者 | 速やかに実施 |
選任期限の猶予がある一方で、業務記録や事故記録、事故報告は「事故が起きたとき」「運行したとき」に発生する義務です。選任がまだでも、日報や事故対応を止めておくわけにはいきません。 迷ったら、記録は今日から始めておくのが安全側の判断です。
制度は始まって間もなく、運用の細部が更新されることがあります。項目ごとの適用開始や猶予の有無、報告対象事故の正確な範囲は、必ず国土交通省と管轄の運輸支局の最新の案内でご確認ください。このページは一般的な情報提供として整理したものです。
08一人親方の現実的な運用
「一人でやっているのに台帳も日報も点呼も、というのは無理がある」と感じる方は多いと思います。ただ、2025年4月からの制度は従業員がいるかどうかではなく、貨物軽自動車運送事業者であるかどうかを基準にしています。一人でも対象です。
現実的な落とし込み方としては、次の順番で組み立てるのがおすすめです。
- まず様式例を落とす:国土交通省の業務記録・事故記録の様式例を見て、自分の運行に合う項目に整える。ゼロから考えないほうが早いです。
- 日報を「毎日の3分」にする:始業前の点検・体調確認と一緒に書く流れにしてしまう。あとでまとめて書こうとすると必ず溜まります。
- 保存の入れ物を先に作る:業務記録は1年、事故記録は3年。月別のフォルダ(紙でもクラウドでも)を先に用意しておく。
- 台帳は開業時に1回書いて、あとは更新:一人なら自分の1枚です。指導・適性診断を受けたらそこに追記していく。
- 事故報告の判断基準だけ手元に置く:報告対象事故の一覧を印刷するか、このページをブックマークしておく。事故の当日に探すのは大変です。
荷物の破損や配送の遅れで責任を問われたとき、「いつ・どこを・どう走ったか」が残っていれば説明ができます。取引先との関係でも、記録がある事業者のほうが信用されます。義務としてやらされる書類、と考えるとつらいですが、トラブル対応の材料としても効きます。
09様式例のダウンロード先まとめ
いずれも国土交通省が公開しているものです。リンク先はExcel・PDFファイルです。
| 使うもの | ダウンロード先 |
|---|---|
| 制度全体の解説リーフレット | 貨物軽自動車運送事業の安全対策(PDF) |
| 業務記録(日報)の様式例 | 業務記録 様式例(Excel) |
| 事故記録の様式例 | 事故記録 様式例(Excel) |
| 事故報告書の様式 | 事故報告書 様式(Excel) |
| 報告対象になる事故の内容 | 報告が必要な事故の一覧(PDF) |
| 特定運転者への指導・適性診断 | 初任・高齢・事故惹起運転者の要件(PDF) |
| 安全管理者の選任・変更・解任届出 | 選任届出書 様式例(Excel) |
| 運転者への指導監督マニュアル | 貨物軽自動車 指導監督マニュアル 本編(PDF) |
| 台帳などの通達別紙様式 | 通達(国自安第79号)別紙様式(Excel) |
これから開業する方は、届出・必要書類で経営届出書の書き方を確認したうえで、開業と同時にこの記録の仕組みを立ち上げてしまうのが手戻りがありません。すでに営業中の方は、安全管理者の選任期限と合わせて棚卸ししてみてください。
10よくある質問
Q業務記録(日報)は何年保存すればよいですか?
国土交通省の案内では業務記録は1年間の保存とされています。事故記録は3年間です。保存期間が違うため、日報と事故記録は分けて管理してください。
Q一人で開業していても記録は必要ですか?
必要です。制度は従業員の有無ではなく「貨物軽自動車運送事業者であること」を基準にしています。一人親方も対象で、自分の業務について記録を作成・保存します。
Q記録は紙でないといけませんか?
国土交通省がExcelの様式例を公開しています。様式例をそのまま使ってもよく、記載事項を満たせば使いやすい形に直しても構いません。大切なのは項目が漏れないことと、保存期間のあいだ確実に取り出せることです。
Q運転者等台帳には何を書きますか?
運転者の氏名、指導の実施状況、適性診断の受診状況などを記載し、営業所に備え置きます。指導や適性診断とセットの書類なので、台帳を埋めようとすると未対応の項目が見つかります。
Q事故報告はいつまでにすればよいですか?
報告対象の事故は、管轄の運輸支局等を経由して30日以内に報告します。加えて、死者2人以上・重傷者5人以上、酒気帯び運転を伴うものなど一定の事故は、24時間以内のできる限り速やかに電話その他の方法で速報が必要です。
Q安全管理者の選任が2027年3月までなら、記録もそれまで待てますか?
待てません。経過措置は安全管理者の選任についてのものです。業務記録や事故記録、事故報告は運行や事故の発生にともなって生じる義務なので、猶予をあてにせず今日から始めるのが安全です。項目ごとの適用は必ず国土交通省・運輸支局の最新案内でご確認ください。